【令和二年度ハレの日インタビュー】壱岐 郷ノ浦祇園山笠(長崎県壱岐市)
例年であれば7月第4土日曜日に開催されますが、令和2年は、新型コロナウィルスの影響で同じ山笠のお祭りである博多祇園山笠(福岡県福岡市)の延期が正式に決定されたことを受けて、郷ノ浦の祇園山笠も来年への延期が決まりました。
郷ノ浦山笠を担う地元のみなさんは「流(ながれ)」という単位に分かれ、本町流、下山流、塞流、新道流の4つの流が存在しています。
マツリズムでは、その中の「下山流」のみなさまに、平成29年からお世話になっています。 今回は地元壱岐出身で下山流の割石さん(下山流)と、割石さんの同級生で、壱岐と葉山の二拠点生活をされている大曲さんに、お話を聞かせていただきました。
- 日時 :令和2年7月26日 20:30~22:30
- 話し手 :割石 和孝さん(郷ノ浦祇園山笠 下山流)、大曲 詩摩さん
- 聞き手 :大原 学(一般社団法人マツリズム 代表理事) 伊藤 悠喜 、今場 雅規、藤井 大地
目次【記事の内容】
マツリズム:
新型コロナウィルスによる感染拡大の影響で、年内のお祭りは軒並み中止だろうなと思い始めてから、そんな中でもマツリズムとして何かできることがあるんじゃないかと考えました。そこで、お祭り当日に担い手の方々に直接お伺いする話から、来年か再来年になって生きてくる価値観や、他の地域に役立つかもしれない知見が得られるのではないかと思って、このような場を設定させていただきました。
「中止」ではなく、来年へ「延期」。
マツリズム:
まずは、郷ノ浦祇園山笠の延期が正式に決定されたのはいつだったのでしょうか。
割石:
確か、緊急事態宣言(4月7日)が発令された後だったかな。博多の山笠の延期が決まった時に、郷ノ浦の山笠も延期することが一緒に決まった感じだと思う。
大曲:
(郷ノ浦祇園山笠の延期は)5月12日だったよ。
割石:
この決定は仕方ないと思う。山笠自体、博多で使われた山笠を持ってきている わけなので。 あの頃は街のみんなコロナ対策に敏感になっていたから、壱岐のありとあらゆる行事の中止が決定されていたよね。本当に、何でもかんでも中止にしなきゃいけない風潮を感じたよ。
マツリズム:
祇園山笠の延期も、割石さんとしては仕方ないと感じられていたんですね。
割石:
あとは、壱岐で感染者が出てしまった こともある。離島で感染者が出たということで、街のみんなには恐怖のような感情もあったんじゃないかな。コロナに対してやっぱり敏感になっていたんだとと思う
マツリズム:
延期のお知らせは、どのように割石さんに伝わったのでしょうか。また、「中止」でなく、「来年へ延期」なんですよね。どう違うんでしょうかね。
割石:
全体のLINEグループで、親会で山笠の延期が決定されたお知らせがが流れてきた。 そうか、確かに中止っていう表現を使わないよね。なんでだろう(笑) やっぱり山笠に関してはなくなったのを嘆いてる人達が多いよね。他はめんどくさいボランティアがなくなったって喜んでるひともいるけど。
山笠の楽しさ。それでも減ってしまう担ぎ手をどうするか。
割石:
郷ノ浦祇園山笠は八坂神社のお祭りだけど、壱岐はそもそも神社の立地密度が全国で一番高いエリアなんて言われてる。祠のようなものまで含めたら、小さな島の中に1000くらいの神社があるんじゃないかな。山笠は今でこそ郷ノ浦町全域のお祭りになっているけど、かつては郷ノ浦町の一部、あくまで市街地の人たちの、局所的なお祭りだったんだよね。自分は市街地の人間じゃなかったから、子供の頃は関わることができなかったけど、唄子(うたこ) をやってみたい思いはあったなあ。でも、ある時に、担ぎ手が減少してきたことを理由に、町の外からでも担ぎに来れるよう緩和された時があったんだよ。
マツリズム:
そんな割石さんが、大人になって実際に山笠に関わることになったきっかけはどのようなものだったんでしょうか。
割石:
私は工務店をやっていて、もともとは壱岐市の商工会に入ってたんだよね。商工会に入ると、普通は自動的に山笠に関わることになるんだけど、最初のうちは大変そうだからってあまり山笠に関わってなかったよ。だけど、町のために何かしたいなという思いが芽生えてきた時に、山笠を通じて町の人と深く関わる良い機会なんじゃないかと感じた。それで実際やってみたら、これが楽しくて。ただ、やっぱり担ぎ手を集めるのは年々難しくなっていて、楽しいだけではない事情もあるんだよね。だから、流の代表の話では、お祭り今年の山笠の延期が決まった時は、肩の荷が下りたというのが正直なところだったらしい。すごいプレッシャーだったと思うよ。
マツリズム:
代表の思いはどのようなものだったのでしょうか。
割石:
一つの流の代表として、山笠の運行の責任者となるというのは本当に大変だと思う。必要な人数の担ぎ手を集めることができるかどうかは、人心を掌握する能力とか、保有する人脈なんかがもろに影響してくるから、誰にでもできるわけではない。代表の、男として、人間として試されるようなイメージかな。だから、担ぎ手をあんまり集められなかったときの代表の落ち込みは相当なものだった。上の人間から叱られることもあるし。
マツリズム:
担ぎ手の数が毎年大きく変動するというのは意外な感じがしますね。
割石:
担ぎ手として来てくれる人数には、波はあるよ。例えば、マツリズムが来てくれた平成30年は、担ぎ手が約30人しかいなくて、担ぐのがなかなかきつかった。正直、台風の接近の影響で日程が短縮されてホッとしたところがあったぐらい。
下山流はもともとは地元意識が強いところで、外からの担ぎ手を受け入れることがあまり上手じゃなかった。そこを、マツリズムが来てくれてから、ちょっと開放的になってきた部分があると思う。それ以降は、外からの担ぎ手を拒まなくなった。
マツリズム:
ということは、マツリズムを最初受け入れる時は少しハードルがあったのかもしれませんね。
割石:
10数年前に、祇園山笠を観光行事化して、観光客を担ぎ手として受け入れようという動きがあったらしいけど、うまくいかなかったと聞いている。それを踏まえて、マツリズムを受け入れる時は、観光客じゃなくてお祭りの一員として受け入れるんだと、ちゃんと説明させてもらった。その甲斐あって、受け入れるための第一歩をうまく踏むことができたのかもしれない。
マツリズム:
ありがとうございます。そのお陰か、例えば昨年は、マツリズム以外の新しい担ぎ手さんが、20人くらいいらっしゃいましたよね。
割石:
そう、昨年は新人さんが多かったよ。でも、例年より担ぎ手の人数は多いのに、担ぎ始めた時はいつもよりもめちゃくちゃ重く感じたのね。初めて担ぐ人が多いと、コツが分からなかったりするから。対策として、昼の休憩時間に、新人さんに自己紹介してもらうタイミングで、感覚的ではあったけど、なんとか担ぎ方のコツを教えた。その後から、ようやく担ぐのが楽になってきた。
昨年増えた新しい担ぎ手は、壱岐の海上保安庁の事務所の人たちだった。海保の船長さんと飲み屋で知り合ったのがきっかけだけど、この年は事務所の人達ほぼ全員が関わってくれた。
我々の認識として、地元の人間だけでお祭りをやるのが難しいのはもう共通してる。参加してくれることは本当に有難いね。本当は地元だけでお祭りをやりたいっていう気持ちは、もうその雰囲気はないと感じる。
マツリズム:
マツリズムとして初めて壱岐にお邪魔した3年前は、前夜祭や打ち上げまで全部に参加させてもらうことができて、みなさんと仲良くなれたなという時に、打ち上げで少し議論が起こった記憶があります。この祭をもっともっと外に発信していこう!という発言に対して、ちゃんと足元(地元の人間)を見ないでどうすんだよって。
割石:
担い手のほうは、20代よりも30代・40代が多いかな。お祭りを運営するのは50代・60代で、その年齢層が一番多いと思う。
地元に住んでいる若い人を増やすことは、現実的ではないと思ってる。例えば、うちの娘が今度大学受験で、当然壱岐には大学がないから島を出ることになる。でも、壱岐に帰ってくる選択肢はほぼゼロだよね。
思えば、地元の祭りやまちづくりに関わろうと思ったきっかけは、娘との会話だった。本人から、大学出た後に壱岐に帰ってくる選択肢はゼロだと聞いて、寂しくなってしまった。確かに俺も、高校の時は島から出ることが目標だったけど、娘に言われると寂しいのよ。戻ってくることが選択肢の一つくらいにできる島にできたらいいなと思って。
そんなわけで、島内だけで担ぎ手を確保することは、もう10年もしないうちに限界になるんじゃないかな。4つの山笠なんて担ぐことができなくて、みんなで協力して、ようやく1つの山笠を担ぐことになっちゃうんじゃないかな。
山笠のない壱岐の様子と、延期が地域に気づかせたこと。
マツリズム:
お祭りのないまちの様子はいかがですか。
割石:
さすがに法被を着た人は見かけないど、みんな一回は飲みに行ってると思う。さみしいんだよ。
マツリズム:
お祭りがない感覚は、お正月が来ないような感覚と近いんでしょうか。
割石:
そうだね、そういう感覚の人もいる。
山笠をやらないなら、イベント事はやらないって基準になってしまっているところがある。壱岐の他の行事で、3年前に復活させた花火大会があるんだけど、やはり今年は開催を迷っていた。必要な許可もとって協賛金も集めたんだけど、花火大会をやることに対して「山笠やってないのに他のイベントは許されないのではないか」という反対意見があったらしい。そんな出来事からも、改めて壱岐にとっての山笠の大切さを痛感したかな。
割石:
本来なら、島を離れて言った若者でも、山笠の時は必ず帰ってくる人もいるよ。壱岐に戻ってくれる唯一の理由が、お盆じゃなくて山笠なんだよ。
マツリズム:
だからこそ今年、そういう機会がなくなってしまったのは寂しいですね。
割石:
そうだね。博多で、飾り山笠だけでもやってくれたら、郷ノ浦でもやれてたかもしれない。
今年は一回も法被を着ることがないかもしれないって、みんなで法被着て飲みに行ったことがあるよ。やっぱり、お祭りの一週間ってお金がすごい使われる期間だから、今年はいつもみたいに毎日飲むことはないけど、それでもこの一週間はみんなでがんばって飲みに行ってたよ。もともとコロナの影響で外食機会が少なくなってたけど、この一週間だけはどこの飲食店も賑わってた。
この一週間は業務人数減らしてたタクシーも通常業務にもどったみたい。
マツリズム:
それは面白いですね。飲み歩いていたのは、山笠の関係者だったんですか?
割石:
つられて、関係者以外もいろんな人達が飲みにいってたんじゃない? この「Go To トラベル」のキャンペーンで、この連休(7/23〜26)は観光客は多かったと思う。でも、宿泊・観光業は嬉しがってる一方で、それを不安がってる住民の人もいるから難しいよね。
マツリズム:
そういえばそもそも、山笠は八坂神社のお祭りだから、起源は疫病退散にあるんですよね。
割石:
だから、こういう時にこそお祭りをやるべきだ、お祭りが疫病に負けてどうするの?って意見もあったけど、さすがに今年は厳しいね。
マツリズム:
割石さんご本人は、お祭りのあるはずだったこの二日間どう過ごされましたか。
割石:
昨日も集まって飲んでたけど、やっぱり自然と山笠の話になるよね、この一週間は。みんな、合わせる意図はなくても、何故か法被着てたりしてた。
山笠だけは特別なんだなって、痛感したよ。コロナのおかげ、という言い方は難しいけど、地域にとって本当に必要なものと必要のないものが明確になったと思う。市役所が、惰性でやってる他の行事がなくなったことには、ああ良かったなという反応なんだけど、山笠に関してはみんな心底悲しんだし、なんとかできないかって人もいた。逆に言えば、やらなくてよかった事もいっぱいあったんだなって分かった事もあった。
マツリズム:
みんなで法被着て飲みに行ってしまう感じは、郷ノ浦らしさを感じました!久しぶりにお話できてよかったです。コロナで必要でないものと必要なものがわかってきちゃうと、来年以降のあり方に関わってきそうですね。
割石:
このお誘いがなかったら、今日がお祭りの日だっていう感覚にならなかったよ。大原君(マツリズム)の顔で、祭りを思い出せた。
記事:今場 雅規(マツリズム)